○Masquerade→薮宏太○

 

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#JUMPで妄想


#Album_m_m


(DEAR.初回限定盤1)


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きらびやかなシャンデリアの下を歩く。


友だちが誘われた舞踏会。代わりにって渡された招待状。赤い烙印を押された今どきでは見ない封筒。

 

こんな世界に飛び込んだことなんて1度もなかった。

 

『ねぇ、1人?』

 

声をかけられて振り向く。仮面越しでも分かるその人の魅力。

 

『ちょっと出ない?』

 

腕を引かれる。返事の一つもしていない。


テラスも、現実的な世界は欠片も広がっていない。涼しい風が肌に良い。

 

『名前は?』

 

「こちらからも聞きたいです。」

 

『なんでこんなところにいるの?』

 

「え…なんでって…」

 

『慣れてないんでしょ?』

 

雰囲気に出ないようにしていたのに、すぐに見破られる。一瞬恐怖を感じて後ずさるけどその時にはもう遅くて。抱き寄せられたと思ったら、今度は唇が塞がれる。

 

仮面がぶつかる、こつんって音が余計にリアルで。相手のそれについてる羽が頬に当たってくすぐったい。

 

『…可愛いなって思ったんだけど』

 

「……そう言ったら許されると?」

 

頬が緩む相手に私も勝手に釣られてしまう。
優しすぎるのはだめだと言われてきたことを今更思い出す。

 

「…匂い。良い匂いしますね。」

 

『何の匂いだと思う?』

 

教えるつもりのなさそうな声に真剣に悩んでるフリをする。どうせそんな事も見破っているだろう。

 

私からの返事をまた、待つこともせずに腕を引かれてまた城の中。陽気ととるか陰気ととるかも分からない音楽が止まる。

 

『どうぞ。』

 

「…踊れませんよ?」

 

『俺に合わせて。』

 

手を出されて、その手に自分の手を乗せる。
どうせ、ここで踊ったって仮面をつけているから。


誰かも分からない相手、下手だって1夜限り。

スローで流れる音楽に合わせて体を揺らす。

どのくらい経ったか、12時を告げる鐘が鳴る。

 

『そろそろ帰らないとね?シンデレラさん。』

 

その人が私の有無を聞かないで城から飛び出る。私も一緒に現実の世界に戻った感じ。

タクシーに押し込まれると必要以上のお札を運転手さんに渡したその人。

 

「…あの、」

 

『またいつか、会えるよ。』

 

この子の家まで、そう告げるとドアを閉めたその人の姿だけを追う。
車が家に着く頃には仮面も外して、現実に戻ったはずだった。

 

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あの日から同じ事を考える、匂いと言葉遣い、踊る時の独特のステップ。

 

『…シンデレラさん、今日はどこから?』

 

帰り道、考えていた声に振り返る。
仮面を外したその人が優しく微笑む。

 

「王子様…って呼ばれたいんですか?」

 

スーツを着たその人と、いかにもOLな私。
2人で夜の街へと消えていく。

 

…fin